約 431,448 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/233.html
284 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/25(火) 14 46 30 ID b7oVprfh0 「区間賞取ったわ!」 そう勢いよくリビングのドアを開けると、 「おかえりなさい、きりりん氏」 「・・・・・・まったく・・・・・・騒々しいわ」 兄貴の声ではない女声が返ってきた。 「あ、あんたたち何でここにっ!」 「拙者たちはきりりん氏に呼ばれてここにいるんでござるよ?」 「いや、早いから!あたしが指定した時間は昼の1時だから!」 そう言って時計を再度確認するあたし。うん、11時46分。早すぎる。 と思っていたとき、黒いのが黙り込んでるのに気が付いた。 「どうしたのあんた?いつものように毒舌かましなさいよ!」 「・・・・・・ふふふ」 寒気がした。 ここは高校。 黒髪の男女二人が揃って帰路についている。 「・・・・・・あなたの妹さん」 「ん?桐乃のことか?」 「・・・・・・・そう」 「桐乃がどうしたんだ?」 「・・・・・・お大事に」 「?」 ここは高坂家。 いつものように茶髪女子中学生の怒号と 黒髪男子高校生のやる気の無い返事のかけあいが行われている。 「だから!これはこうやるの!」 「だぁーからわからんって言ってるだろ!」 「ハァ?いい?ここはこうやったほうがいいルートに進むんだから!」 「それはお前の価値観だろ!」 「つべこべ言わずにやれ!」 それから30分。 「・・・なぁ」 「なによ」 「お前・・・・・・病気なんだってな」 「ハァ?何それ?」 「しかも・・・・・・不治の病らしいな」 「な・・・・・・何を言ってるの?」 あたしも知らないあたしのことをなんでこいつが――― 「よくわからないけどさ。お前が"クンカ症"にかかってるって黒猫が」 「あいつめえええええええええええええええええええ!!!!!」 あの時、あいつがニヤニヤしてたのはそういうことだったのね! 「あいつがお大事にって心配して・・・」 「それ区間賞だから!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/32.html
159 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 13 49 01 ID EjAAzaLd0 [2/4] 「あ……あんた、何、言ってんの……?」 「に、二度も言えるかよ。分かんだろ!」 「……分かんない。全、然、分かんない!」 「っち。ちゃんと聞けよお前! だから……その、俺は、お前のことが――」 「あら桐乃。今日は随分早いのね」 「……うん。ちょっと、最悪な夢見ちゃってさ……」 169 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/11/15(月) 15 43 17 ID EQjJKpVC0 [2/2] 159 最近、どうも桐乃の態度が気に食わない 何かにつけては人生相談という名目で無理難題をふっかけてきやがるわ 俺の事を「カリビ○ン」と呼んでからかってくるわそれを親にバラすわ・・・・ 何か仕返しをしてやろうと虎視眈々と機会を窺っていたんだがあの完璧超人の妹様にはそれらしい機会もない そこでそういえばいつか「兄貴の事が好き」とかからかわれた気がするな・・・思いついた時には「これだっ!」と思ったね そんなこんなで俺は仕返しをしてやろうと桐乃の部屋に来たってわけだ 「ねぇ?いったいなんなの?あたし早くエロゲーの続きしたいんですケド?」 「・・・・」 いや、しかしなんだ・・・冗談とは言え妹に好きっていうのはかなり気恥ずかしいぞ アイツよくこんな事演技でもまともに言えたな・・・。なんだってんだ妹相手にこんなに意識する必要なんてないだろ あくまで冗談だ。冗談。桐乃をからかって精神的優位に立ちたいだけなんだからな!本当だぞ! 「用事ないならもういい?いつまで妹の部屋に居座るわけ?超キモいんですけど~」 「桐乃、話がある」 「な、なによ?いきなりマジな声出しちゃって・・・顔、近いんだけど・・・」 そう言いながら少し後ずさる桐乃の肩を掴みジッと見つめる。おい、なんで顔赤らめて目が潤んでるんだよ なんか本気で照れてるみたいじゃねーかやめろよキャラじゃねーだろ・・・ うおおおおおなんか恥ずかしいぞ・・・・そういえば俺、告白なんて始めてするんだもんな いかん、冷静になれ。落ち着け俺! ふぅーと一呼吸おいて少し冷静になる。覚悟を決めろ・・・高坂京介!! 「俺・・・」 「?」 「お、俺は・・・」 「・・・・何?」 「桐乃が・・・・」 「桐乃の事が大好きなんだ!愛してるといってもいい!お前がいなくなったら俺が俺でなくなっちまうんだよ!だから・・・俺と付き合ってくれ!」 言った・・・。ハハハ!どうよ!言ってやったぜ! 後はテンパる桐乃をからかって部屋を脱出するだけだ! 「っ・・・あ、あんた・・・なにいってんの・・・?自分の言ってる意味分かってんの?」 「ああ、分かってるね。お前が好きなんだよ悪りぃか!」 「ぅ・・・・っ……分かんない。全、然、分かんない!」 「わかんねぇならもう一回言ってやる。 だから……その、俺は、お前のことが――」 そう言おうと思って口を開いきかけた俺の唇は桐乃の唇にふさがれたせいで思った言葉が紡げなかった なんだ・・・?すげー柔らかい物が口を塞いでるのは分かるんだが 頭と顔が熱くて冷静に物事を捉えられない 「べ、別に・・・・あんたの事が好きなんじゃないから・・・・ただ、その・・・いつも助けてくれるし・・・あたしそのお礼も満足に言えてないし・・・ だからその・・・兄貴がそういうつもりなら・・・・これが・・・・と、とにかくそういう事なの!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1826.html
SS『とある午後の昼下がり』 「ねぇ、今日の午後に、あやせが用事で家に来るから、あんた、どっか行っといてくんない?」 「なんでだよ!」 いきなりだが、あいかわらず理不尽な妹様である。 「あんた、あやせのことフッたんでしょ?気まずくないワケ?」 ああ、そういう意味か。一応、こいつなりに気を使ってるんだな。最初からちゃんとそう言えばいいのに。 「そりゃあ、まあ、そうだけどさ。だからって、金輪際会わないってワケにもいかねーだろ?あやせはお前の大切な親友なんだからさ。」 「どーゆー意味?」 「お前にとって大事な人なら、俺にとっても大事な人って意味だよ。それに、あやせと約束したしな、お前を幸せにするってさ。」 「へ!?な、なに勝手に話してくれちゃってるワケ!?」 「こないだ学校の帰りがけに偶然あやせと会った時に言われたんだよ、ちゃんと幸せにしろってな。」 『お兄さん、もし桐乃にいかがわしいことをしたら、ぶち殺しますよ。でも、ちゃんと桐乃を幸せにしなかったら、もっとぶち殺しますよ。』 もっとぶち殺すってなんだよ!?って、思わず突っ込みそうになったよ、マジで。 「そーゆーワケだから、どこにも行かねーぞ。ま、受験生なんだから、大人しく部屋で勉強でもしとくからさ。それなら別にいーだろ?」 「ふ、ふん、あっそ。」 そう言って、ぷいっとそっぽを向く。 あいかわらず良く分からん妹様だ---。 昔の俺のモノローグなら、そんなところだな。 でも今はもう違う。 理由は---これを読んでくれているおまえらなら、言わなくても分かるよな? ------------------------------------- ピンポーン。 「あ、来た来た。」 パタパタと、桐乃が玄関に出迎えに行く。 がちゃ。 「いらっしゃーい、あやせ、、、と、御鏡さん?」 「やあ、こんにちは、桐乃さん。京介くんは居ますか?」 「居るけど、どうして二人揃って?もしかして、、、そーゆう関係になったとか?」 「ご、誤解だよ!桐乃!」 「いやあ、京介くんと遊ぼうと思って歩いて来てたら、ちょうどそこでバッタリ会っちゃって。」 「そ、そうそう。」 「で、聞いたら、桐乃さん家に行くところっていうから、一緒に来たんですよ。」 「一緒に来たんじゃなくて、たまたま一緒の方向に歩いて来ただけですっ!」 「ははは。ということみたいです。」 「てか、俺はお前と遊ぶ約束なんてした覚えはねーけどな。」 頭をかきながら玄関に出迎える。いつもながら、呼ばれてもねーのに勝手に遊びに来るやつだ。 「そういえば、お前ら、仲直りしたの?」 以前、こいつは、あやせのストーカー事件の際に、あやせを守るために、女装してあやせに近づいて、危うくあやせに通報されかかったのだ。 ストーカーから守るために、ストーカーみたいな行為をやって、ストーカーとして捕まってりゃ、世話ねぇって話だ。 「美咲さんから新垣さんに説明してもらって、この前の誤解は解けたんだけど、誤解じゃなかった分はそのままというか、、、ね。」 「わたしのために行動してくれたってことは、もちろん感謝してるんですけど、、、。その方法自体は、やっぱり変態なんで、近づかないで欲しいっていうか。」 可哀想なやつである。 「で?何しに来たの?お前は?」 「さっき言ったじゃないか、遊びに来たって。」 「つっても、俺ん家に来ても、遊ぶモンなんてなんもねーぞ?」 男二人で遊ぶって言っても、ゲームとか持ってるわけじゃないからな。何して遊ぶってんだ、一体? 「うーん、じゃあ、今日は天気も良いからさ、一緒にエロゲーしようよ。」 ぶっ!!!話に全く脈絡がねーぞ!!!それが男ふたりでやることか!しかも女子中学生の前でなんて台詞を吐きやがる! おまけに、よりにもよって、あやせの前で、とか、自殺志願者にもほどがあるだろ! 「なんですか、、、それ、、、。」 ほら見ろ!瞳から光彩が消えてキラーマシン状態になってんぞ!どうすんだ!? 「ほらこれ。アリスプラスの新作エロゲーを持ってきたんだ、『妹(マイ)家庭教師』。受験勉強中の京介くんへのお土産だよ。」 おい!なんてことを口にしやがる!わざわざ出して見せんな!しかもどんな内容なんだよ! てか、火に油を注ぐなんてもんじゃないだろ!コレは!火に爆薬を投げ入れるようなもんだぞ! まだほんの二、三分しか喋ってねーってのに、もう既にツッコミが追いつかん! さすがに桐乃も引きつっている。 あやせに目をやると---っ! やばい!とりあえず御鏡を外に追い出すっきゃねぇ! 御鏡を外に追い出そうと動いた直後。 「死ねぇーーーーー!」 あやせの回し蹴りが炸裂した! 運悪く間に入ってしまった、この俺にな! ------------------------------------- 「ご、ごめんなさい、お兄さん。」 気がついたらソファーに横にされていた俺に、しきりに謝るあやせ。 「つつ、、、久々だから効いたぜ、、、なんてな。大した事ないから気にすんな。」 「そうだよ、京介くんにとっては、むしろご褒美なんだから。」 「お前が言うな!」 結局上がりこんでやがる。どんだけ神経図太いんだか。 「そ、そもそも!あなたがあんなものを出すから悪いんじゃないですか!」 そのとーり。 「これ?」 だから出すなって! 「だ、出さなくて結構です!ホントに最低ですね!この変態!」 「可愛いと思うんだけどなぁ、、、。」 そーゆー問題じゃねぇだろ。 桐乃が前にこいつに言った、TPOをわきまえろって台詞を、覚えてねぇのか? それともTPOをわきまえた結果がこれなのか? どっちにしても残念なやつだ。 「はい、これ。」 冷湿布を桐乃が持ってきてくれた。 「おう、さんきゅ。」 「あやせ、ここに居ると変態がうつるから、あたしの部屋に行こ?」 それには俺も含まれてるのか?てか、妹エロゲ好きのお前も含まれるべきなんじゃないのか? と思うが、とりあえず、脳内ツッコミに留める。 「う、うん。お兄さん、本当にすみませんでした。」 「いいって、気にすんなっつったろ?」 「は、はい。では。」 パタン。 「ふう、京介くんも大変だね。」 「だから、お前が言うな!!!」 ------------------------------------- 「桐乃、ホントにごめんね。」 「あいつも言ってたっしょ、気にしなくていいって。あやせは全然悪くないんだからさ。」 誤りたいのはコッチなのに。こんなことになるんだったら、やっぱり京介を追い出しとけばよかった。 、、、まぁ、一番の原因は御鏡さんなんだケド。会うたびに残念さが増していってない?あの人。 「さ、じゃあ、気を取り直して始めよっか。」 今日は、卒業式の日にあやせが代表で読む答辞を一緒に考えるのが目的なんだから。 ------------------------------------- 「大体こんなトコかな。」 「うん、ありがとう、桐乃。」 「別にいいって。でも、こうやって答辞とか考えてると、いよいよ卒業かぁ、ってカンジがするよね。」 「そうだね、、、。わたし、桐乃に出会えて、本当によかった。」 「へ?ど、どうしたの、急に?」 「えへへ、なんか、答辞を考えているうちに昔のことを色々思い出しちゃって、、、。改めて、ちゃんと言葉にして伝えておかなきゃ、って思ったの。」 「、、、ありがとね、あやせ。あたしも同じ気持ちだよ。3年間、一緒に居てくれて、友達で居てくれてありがとう。それと、これからもよろしくね。」 「あたしのほうこそ、だよ、桐乃。本当に、本当にありがとう、、、。ねぇ、桐乃、今、幸せ?」 「へっ?と、突然なに言って、、、?」 「ちゃんと応えて。」 優しいけれど力強い口調でそう言って、あやせがじっと見つめてくる。 「ど、どうして、、、?」 「最近、桐乃、わたしにお兄さんの話、しなくなっちゃったじゃない?」 「そ、それは、、、その、、、。」 「桐乃、わたしに気を使ってくれてるんでしょ?」 「うう、、、。」 「桐乃。わたし、後悔なんてしてないよ。黒猫さんも、きっとそう。だって、あのとき、桐乃をたきつけたのはわたしたち自身なんだから。」 「だからね、桐乃。わたしたちのことを想ってくれているのなら、その分、しっかり幸せになってほしいの。」 「あやせ、、、。」 「ね?だから、ちゃんと応えて。」 「ぅぅ、、、、うん、、、、幸せ。」 う~、めっちゃ恥ずかしいんですケド。でも、ちゃんと言わなくちゃ、だよね。 「うん、なら良かった。これからは気を使ったりしないで、今までどおりの桐乃で居てね。約束だよ?」 「、、、うん、わかった。ありがとね、あやせ。」 、、、ホントに、あたしは、なんて幸せ者なんだろう。涙が出そうになる。 少し前まで、一生誰にも言わずにいるしかないと、ひとりで我慢し続けていたこと。 絶対に叶わない夢だと分かっていて、それでも、どうしても捨て切れなくて、叶えたくて、頑張り続けてきた日々。 その夢が、今、この手の中にある。そして、それを応援してくれる人たちがいる。 なにより、ずっといちばん近くに居たかった人が、いちばん近くでそばに居てくれる。 「じゃあ、指切り。」 そういって、あやせが小指を差し出してくる。 「うん。」 あたしも同じようにして小指を重ねる。 「わたしたちにも答えは分からないけど、これからもずっと応援しているからね。」 「あやせぇ、、、。」 思わずあやせに抱きついた。我慢していた涙が零れ落ちる。 あやせが、そっと、あたしの頭を撫でてくれた。 「えへへ、いつもと逆だね。」 期間限定-----。 このことをあやせが知ったら、どう思うかな? 怒るかな? でも、これが今のあたしたちにできる精一杯。それから先の答は、まだ見つからない。 だけど、この想いだけは、この期間が終わっても、ううん、これから先、どんなことがあっても、絶対に手放したりはしない。 あたしがあたしであるために。 これまでのあたしに、そして、これからのあたしに誓って---。 ------------------------------------- 「で、マジでどうすんの?」 「だから妹(マイ)家」 「却下だ。」 「つれないなぁ。」 「そんなにやりたきゃ、兄貴とやれば?」 「今日は用事があって出来ないって言われたんだ。」 「今日は、って、まさか、ホントにやったことあんの?」 「たまにね。」 御鏡兄、恐るべし。やるか?普通?いくら生活の面倒を見てもらっている弟の頼みだからっつっても。 、、、といっても、これが弟じゃなくて妹だったら、と考えると、やってることは同じなのか?うーん。 男同士の弟だったらダメで、妹だからセーフ?とか考えてしまう俺もつくづく末期症状だな、間違いなく。 それはそうと。 「で、お前のほうは、あやせとはホントになんでもないんだな?」 もう俺が口を出すことじゃないのは重々承知しているのだが、それでも、心配ではある。 ま、こいつが三次元の女の子とどうにかなる、なんてことがあるはずもないが。 「うん、なんでもないよ。だけどそんなに気にするってことは、京介くん、もしかして、、、。」 「そんなんじゃねーよ、ただ単純にあやせのことが心配なだけだ。お前はいいやつだけど変態だからな。」 「だったらいいけど。いや、僕のことは良くないけど。でも京介くん、新垣さんは確かに可愛い子だけど、浮気とかしちゃダメだよ。」 「するか!」 「ならいいけど。この世の中に女の子はたくさんいるけど、京介くんにとっての妹は、この宇宙でただひとり、桐乃さんだけなんだからね。」 「えらくまたスケールの大きい話になったな。」 思わず苦笑する。 でも、言われなくても分かってるよ。 桐乃は俺にとって、かけがえのない、たった一人の妹で、そして、誰よりもいちばん大切な存在だ。 これだけは、絶対に変わらない。 たとえ約束の時が過ぎて、恋人から兄妹に戻ったとしても。 これから先、どんなことがあっても絶対に護り抜くと、俺自身が決めたことなんだから。 俺が俺であるために。これからの生涯をかけて。 『こんなの、俺がなりたかった俺じゃねぇよ!』 ガキの頃、思い描いていた自分自身。どんなときでも妹のことを護ってやれる、すごい兄貴。 思い描いていた俺と違って、カッコ悪くてすまないな。 でも、たとえどんなにカッコ悪くても、妹のことは必ず護ってみせるからな---。 「幸せそうだね、京介くん。」 「、、、ほっとけ。」 ------------------------------------- 「おじゃましましたー。」 二人を玄関で見送ったあと。 「これからどうすんの?」 そう桐乃が聞いてきた。 さて、どうするか。結局、今日は全然勉強できてないしな、、、。 「まあ、受験勉強の続きをするさ。」 「妹(マイ)家庭教師で?」 「なワケねーだろ!」 「ひひ、じゃあ、しょうがない、あたしが代わりに妹(マイ)家庭教師をしてやろっか?」 「それって、おまえがエロゲーやりたいだけじゃねーの?」 「じゃなくて。あたしがあんたに勉強を教えてやろうかっつってんの。」 「中学生に勉強を教わる高校生の兄貴って、どんなだよ!なにを教えてもらうってんだ!?」 「英語のヒアリングとか?」 「む、、、。」 確かにこいつ、留学してたから、英語は普通に話せるんだよな、、、。 「聞き慣れたら、英語なんてそんなに難しくないって。普段使う機会が無いから聞き慣れないだけで。」 「それに、あたしも時々は話す練習しとかないと、忘れちゃうしね。一石二鳥っしょ。」 うーん。 「まあ、それは分からなくもないが、、、。お前が教科書を読んで、俺がその聞き取りの練習でもすんのか?」 「うーん。」 しばらく考えて、桐乃はしれっとこう言った。 「じゃあ、妹(マイ)家庭教師を一緒にプレイしながら、あたしがそれを英語で喋って、あんたが聞き取りする、ってのはどう?」 「ドヤ顔でとんでもない提案してんじゃねぇよ!!!」 発想が斜め上過ぎだろ! 「エロゲもできて、あたしの英語の勉強にもなるし、あんたの英語の勉強にもなるし、一石三鳥じゃん!」 真顔で言ってくる。ダメだこいつ、、、早くなんとかしないと、、、。 はぁ。しょうがない。 「、、、てことは、そういうシーンもお前が英語で喋ってくれんの?」 「な!な、な、んなワケないでしょッ!このどエロ!変態!シスコン!妹にエロゲーの朗読プレイさせるとか!あ、ありえないし!」 「お・ま・え・が・言・う・なーーーっ!」 Fin ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1186.html
368 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/05(水) 01 00 59.67 ID CVKwMpTp0 [1/2] タイトル:『秋の祭典2011』に行こう(桐乃視点) あたしは、京介のベッドに寝転がりながら携帯サイトを眺めていた。 これ、誘ったら付き合ってくれるかな。 あたしが見ているのは、『雷撃文庫秋の祭典2011』のサイトである。 まぁ迷っててもしょうがない、あたしはダメもとで聞いてみた・・・・・ 「面白そうではあるな・・・それじゃ付き合ってやるか、場所はどこだ」 「アキバ・・・てか付き合ってあげるのは、あたし。そこんとこ間違いないでよね」 「おい、言い出したのはおまえだろ」 「うっさい、明日は朝から行くからちゃんと起きなさいよね」 やった、言ってみるもんだな、明日が楽しみ。 あたしはそう思い、京介の布団に入る。しかし京介はそれが不満そうだ。 「待て、そこで寝る気か。俺のベッドだぞ」 「あんたの寝る場所は空けといてあげる。シスコンのあんたはこんな可愛い妹と添い寝で きるんだから、感謝しなさいよね」 「おまえ、いつもそうやって・・・・・俺に襲われるかもとか考えないのかよ」 「変態、もし襲ったら、あんたは一生あたしの奴隷だかんね。それじゃおやすみ」 あたしは断固としてここを動かない。 襲えるもんなら襲ってみなさいよ、ちゃんと責任とってもらうんだからね。 翌朝、あたしは京介に起こされる。 京介はちゃんと添い寝してくれたみたいだ。 「桐乃、起きろ」 「んー、もう少し・・・・・」 「こら、腕を放せ。てか俺の胸に顔を埋めるな。」 うっさいな、いーじゃん、少し余韻を楽しませなさいよね。 あたしが余韻を楽しんでる間にずいぶん時間が経ってしまい、アキバに着いたのは10時 過ぎていた。 『雷撃SHOP本店最後尾、100分待ち』 物販列の最後尾に着くと、そんな看板が立っていた。 完全に出遅れた。売り切れないといいけどな・・・・・ 「おい桐乃、どうすんだよこれ」 「別にいいじゃん。昔の人も『何故、列に並ぶのか。そこに欲しいものがあるから』って 言ってるじゃん」 「おまえ、それ絶対違うから・・・・・」 「いいから、あんたも並べ」 そうしてあたしたちは列に並んだ。 列に並んでいる間、隣にいる京介はあたしを無視して、持ってきたラノベを読んでいる。 あんたさ、あたしが隣にいるんだからあたしと話する気ないわけ? マジむかつく。 「あーもう、いつまで並べばいいのよ」 「おい、おまえさっきなんて言った。てかまだ30分経ってないぞ」 「いちいちうっさいな、てか喉渇いた、あんたジュース買ってきなさい」 「へいへい・・・・・」 京介は素直にジュースを買いに行ってしまった。 「これでいいか」 「へへっ、サンキュ~」 あたしはジュースを受け取って飲んだ。 あんた、もう少し別のところに気を使いなさいよね そして1時間くらいすると、あたしたちはやっと物販ブースに入ることができた。中には ラノベのオフィシャルグッズが並んでいる。 「結構、いろいろあるんだな・・・・・」 「どれを買おうかな、迷っちゃうな」 おかしの家に入ったヘンゼルとグレーテルってこんな気分なのかしら。あたしは夢心地に なる。 しかし、京介の突然の言葉で我に返る。 「おいおい、そんなに買って持って帰れるのかよ」 「何言ってんの、あんた。あんたが持つに決まってるじゃない」 「やっぱりそうきたか・・・・・」 京介に荷物を渡すと、二人で出口に向かう。出口の脇ではトークショーが行われていた。 「あっ、くららちゃんがいる。ねぇねぇ、見ていこうよ」 「いいけど、立ち見になるぞ」 「別にいいよ、そんなの」 あたしは京介の手を引いて立ち見席に行く・・・・・・・ 「んー、楽しかった」 「おまえは、こういうイベント来るとほんと周りと変わんないよな」 「いいじゃん別に、周りと一緒に楽しまないとソンだよ」 「はいはい、次はどうする」 えっと、パンフレットによると・・・・・ 「うんとね、別の会場でラノベの挿絵とかの展示してるみたい」 「それじゃ、そっちを見てみるか」 展示会場の壁には、いろいろなラノベの挿絵とか表紙のパネルが展示されていた。 「ラノベだと小さい挿絵だが、このサイズで見ると結構迫力あるな」 「そうだね・・・」 京介は、入り口近くにあった黒いドレスに蝶の羽を纏ったヒロインのイラストに見とれて いる。 あんた、そんなに黒がいいわけ? あたしはそんな京介にむかついて背を向けると、反対側の壁にあった一枚のイラストに目 がいった。それは、ウエディングドレスを着たヒロインが主人公にお姫様抱っこされてい る絵であった。絵のヒロインは、照れているようにも見えるが何か嬉しそうでもある。あ たしはその絵から目が離せなくなる。 あたしが、こんなことされたらどうなるんだろう? やっぱりこんな風に照れるのかな? でも一度くらいされたいかな・・・ お願いしたらやってるれるかな・・・ あたしは京介にお姫様抱っこをされている自分を想像してしまう。なんかそれだけで鼓動 が早くなっていくような気がする。 「何だ、そんなに興味あるのか」と、背後から突然京介の声がした。あたしは思わずドキ ッとしてしまう。 あたしはどもりながら、「えっ、いや少し憧れるというか・・・・・」と答えてしまう。 ちょっと待って、あたしなに恥ずかしいこと言ってるの。 「お姫様抱っこされたいのか?」 「このシスコン、誰があんたなんかに・・・・」 「いや、俺がするって言ってないだろ」 「うっさい」 何か恥ずかしいことをしゃべってしまった自分に落ち込む。同時にあまりにも淡白な京介 の反応にむかついてくる。 もうあいつ、あたしがあんなふうに言ったんだから『桐乃、俺がお姫様抱っこしてやるぜ』 くらい言えないの? あたしは会場を出ても、自己嫌悪とむかつきが収まらなかった。 そんなあたしに京介は「桐乃、おみくじ奢ってやるから機嫌直せ」と会場入り口にあった おみくじ売り場を指差しながら言った。 こいつはほんとうに普段は気が利かないくせに、何でこんなときは気が利くんだろう。そ んな京介の気遣いを感じると、段々とむかつきと自己嫌悪が収まってくる。でもあたしも 素直じゃないから『機嫌直ったよ』なんて簡単には言えない。 「・・・キモ、そんなんであたしの機嫌とれると思わないでよね」 「いいから、一回やってみろよ」 「あんたがそこまで言うんだったら、一回やってあげる」 あたしは試しにおみくじを引いてみることにした。これを口実にうまく仲直りできるとい いけど。あたしが引いたおみくじは『神メモのアリス』だった。 「わー、アリスちゃんだ可愛い~」 「よかったな、で何て書いてあるんだ」 おみくじに目を通してみる。そこには・・・ 『【恋愛運】自分の気持ちに素直になれないと厳しそうです。せっかくの出会いを無駄に しないためにも、たまには外出してみるなど積極的に動いてみて!』 と書かれていた。何かおみくじにまで、自分のことを見透かされているようで少し泣けて きた。 「どうした、何て書いてあった」 「秘密」 あたしはそう言ってバッグにおみくじをしまい、おみくじに書いてあったことをもう一度 頭に浮かべる。 京介はいつも通りの口調で「一通り、見たけど後はどうする」と言う。 あたしは少し素直な気持ちで「ご飯食べて、アキバ見物しよう~」と答える。 そんなあたしを見て京介は、「飯くらいは奢ってやるよ」と言ってくれた。 そんなに気を使ってくれるなら思いっきりサービスしないとね。 あたしは、京介の腕に抱きついて思いっきりの笑顔で「あんたにしては、いいこと言うじ ゃん。しょうがないな、この可愛いあたしがシスコンのあんたにエスコートされてあげる」 と答えた。 完 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1184.html
139 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/04(火) 15 27 16.55 ID u6FXKqcm0 [2/4] 「王様ゲーム?」 「そっ!ちょっと付き合えヨ〜」 にひひ,と加奈子が笑みを浮かべる。 今日は久しぶりに,高坂家にあやせと加奈子が遊びに来ていた。 桐乃の部屋に呼ばれた俺は,いきなり王様ゲームに誘われたのだ。 「王様ゲームって……王様の言うことは絶対!っていうあれか?」 「それそれぇ〜。人数多い方楽しいから,京介もやろうぜぇ〜」 こんなふうに誘われるとは思わなかったが…… ふむ,確かに息抜きにはいいかもしれん。 「よし,やるか」 俺は加奈子の誘いにのることにした。 ここでふと,桐乃とあやせに目をやると,二人は何故か顔を真っ赤にして俯いている。 「なんだお前ら,熱でもあんのか?」 「なっ,なんでもありません!」 「ばばばばっかじゃないの!?」 うおっ!なんで切れ気味なんだよ…… ため息まじりに頭を掻いていると,加奈子が裾をくいくいっと引っぱってきた。 「ほら,さっさと引けヨ」 そう言って,人数分のくじを差し出してくる。 あれ?なんかこいつも……気のせいか? 最初に王様を引き当てたのは,加奈子だった。 「加奈子が王様かぁ〜,ど,どうしよっかなァ?」 うっとり頬を染める加奈子。 よりによってこいつかよ……一体どんな無理難題を言ってくるつもりだ。 ……どうか俺じゃありませんように! 「んー,そうだなァ」 加奈子王はしばし逡巡し──命令を下した。 「じゃあ1番のヤツは,加奈子の背中掛けヨ」 あれ,意外と普通だな。 まあでも,こういうのがこいつらしいのかも…… 俺は心の中で苦笑する。さーて,1番のやつは……って俺じゃねーか! 「ほら1番,さっさとする!」 まぁ背中掻く程度ならいいか…… 俺は観念して,うつぶせになった加奈子の背中を掻きはじめた。 「うひっ,くすぐったい!」 「こ,こら!変な声出すな!」 まるでいつかのようなやりとりをする俺たち。 妙な懐かしさを覚えながらも,俺は背中を掻き続けた。 「ん〜〜そこそこぉ……超きもちいぃ……」 ……背後から感じる殺気は気のせいだと思いたい。 もうそろそろいいだろ……そう言おうとしたとき,加奈子はとんでもないことを口にした。 「次,おしり」 ちょっ,さすがにそれはヤバいって! 「いいじゃんかヨ〜。いつもみたいにさ,お願いっ♡」 「人聞き悪いこと言ってんじゃねぇ!しり掻いてやったのは一回だけだろが!」 ぎゃあああ!背後からの殺気が一気に増したぞ!どうすんだコレ! 「……加奈子,王様の命令は一つだけだよ?」 ──あやせ様,瞳の光彩を完全に無くしておられる…… さすがの加奈子も恐れをなしたのか,ゆっくりと起き上がった。 「ちぇ,いいところだったのに……」 ふぅ……正直助かったぜ。 「どうやら,わたしが王様みたいですね」 次に王様を引き当てたのは,あやせだった。 ──というかさっきからこいつ,顔が真っ赤なんだが……本当に大丈夫か? 「おい,やっぱり熱あるんじゃねーか?病院行った方が……」 「ななな,なんでもないって言ってるじゃないですか!ほっといてください!」 し,しかしですね,あやせさん……目が逝っちゃってますよ? 「ほんとに大丈夫ですから……じゃあ命令言いますよ」 すーっ,はーっ……深呼吸をしたあやせ王は,驚くべき命令を下した。 「1番の人は……わ,わたしにセクハラをしてくださいっ!」 ぶーーーーーーーーーーーーーーーっ!! な,何言っちゃってんのこの人!? 「ちょっとあやせ!?」 「べ,別にいいでしょ桐乃……わたしが王様なんだから」 「そうだけどさ……」 むーっ,とあやせを睨みつける桐乃。 よりにもよって,なんて命令を下してんだあやせは……しかも1番って俺だし。 「ほ,ほら,1番の人,誰ですか!」 「……俺だ」 観念した俺は,あやせの前で正座した。 「ふ,ふん!お兄さんでしたか。じゃあ,いつもみたいにさっさとやってください」 んなこと言われてもなぁ。 それに,いつもみたいにって……お前にセクハラをした覚えなんてないぞ? あやせはきつく口を結んで,俺のセクハラをじっと待っている。 ふむ……要するに,こいつへの今まで言動の中で,最も嫌がられたやつをやればいいのか? だとしたらもう,これしかないな。 「あやせ」 「は,はいっ」 俺は大きく息をついて──かつての台詞を口にした。 「結婚してくれ」 それを聞いたあやせは,これ以上ないほど茹で上がり── 「し,死ねェェェェェェェェェェェェェェ!!!」 これ以上ないほどの張り手を俺に浴びせた。 「おー,いてててて……」 俺は打たれた頬をさすりながら,あやせに批難の目を向けた。 「おい,痛かったぞ」 「痛かったぞ,じゃありません! よ,よりにもよって何ですかアレは!」 お前がセクハラしろって言ったんじゃねえか…… 「ふん,あんなこと言ったお兄さんが悪いんですからね」 ぷいっとそっぽを向くあやせ。 そんなあやせを,桐乃はジト目で睨みつける。 「……それにしてはあやせ,なんか満ち足りた顔してない?」 「え……き,気のせいじゃない?」 「……ふん,まあいいケド。次はあたしね」 どうやら今度は,桐乃が王様くじを引いたらしい。 桐乃が王様か……一体どんな命令を言ってくるんだ? 「ん〜どうしよっかな〜?フヒヒ」 桐乃は真っ赤になった頬に手を当て──しかしそこで,何かに気付いたように微笑んだ。 「──決めた。あたしの命令」 ふふふっ,と艶妖な笑みを浮かべて,桐乃王は命令を下す。 「1番を引いた人は全員──」 「これからもずっと,あたしの大切な人でいてください」 すうっと,俺は自分の引いたくじに目を落とす。 そこに書かれていた数字は──『1』だった。 やれやれ,どうやらこいつとは,こういう巡り合わせらしいな。 言われずとも,そのつもりだよ。 何故かバツが悪そうにしている二人を尻目に,俺は決意を新たにするのだった。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/247.html
75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/30(日) 18 34 15 ID 7ukgWbOS0 [1/2] 黒猫から告白されて、数日後。 俺は、こんなメールを受け取っていた。 『明日、秋葉原に、デートに行きませんか?』 あれから今まで、俺の中では結論が出てなくて、未だに答えを出せていなかったのだが――― これも、いい機会なのかもしれない。明日のデートの間に、答えを出そう。 すぐに、『了解した、楽しみにしてる。』とのメールを送った。 黒猫・・・いや、五更瑠璃は、俺の後輩で、元々は妹のオタ友達だった。 それが、何故か告白されて・・・ いや、別に嫌なわけじゃない。むしろ、たぶん、嬉しい。 妹とは違うタイプの美人で、オタクなところもあるが、妹よりはマシだ。 性格は控えめだが友達思い。見かけによらず、根性もある。 最近は服装のセンスが変わって、黒猫というより白猫と言った感じになって、可愛らしさも増している。 実際・・・そう、全体的に見ると、猫というより、兎みたいな感じだろうか。 どちらかというなら、わがままで、自分勝手、わが道をひたすらに突き進む、俺の妹――― 桐乃のほうが、『黒猫』という言葉が似合ってるかもしれない。 桐乃は確かに、見た目だけなら黒猫以上の美人で、すっぴんでも目をひくような端整な顔に、 中学生離れした、体のライン―――背がすらっと高く、出る所はしっかり出ている―――を持ち、 さらに、入念なメイクで磨き上げ、髪もライトブラウンに鮮やかに染め、 マニュキュアも艶やかに、しかも良い匂いのする香水までつけやがって、 兄である俺ですら、近くにいるとドキドキしてしまうほどなんだが・・・ そうだ、性格はこれ以上ないくらいに最悪だ。 1年ちょっと前までは、俺の事、完全に無視していやがったし、 久しぶりに話しかけるきっかけは、妹モノのエロゲというくらいの重症オタクだし、 それ以後も、取材だとか言って、クリスマスイブに俺を連れまわしたり、 勝手にアメリカに行って、俺を・・・みんなを心配させたり。 挙句の果てに、俺に彼氏のふりをしろとのたまったり、偽彼氏まで連れてくる始末だ。 それらの面倒な・・・実に面倒なイベントの数々で、俺が今までどれだけ恥ずかしい思いをしてきたかっ! こんな、猫みたいに勝手気ままで、頭の中が真っ黒な桐乃こそが『黒猫』の名にふさわしいだろう? ・・・いや、今は妹の事はどうでもよかったな。 明日のデートに期待をしつつ、俺は早めに寝る事にした。 寝る前に、隣の部屋でごそごそと音がしていたが・・・まあ、気にする事もないだろう。 翌日は雲ひとつ無い晴天。絶好のデート日和だぜ。 アキバでデートするのに天気はあまり関係ないかもしれないが、それでもやはり気分がいい。 今日は黒猫に、告白の返事をするんだ。 電車に乗って約一時間。 ホコ天が再開された秋葉原の町並みは、やっぱり以前と変わらず雑然としている。 今日の待ち合わせ場所は、いつぞやのメイド喫茶だったな。 今は午前10時27分。 少し時間には早いのだが―――何故か分からないが、少し遅れる位に来て欲しいとメールがあったんだ――― まあ、数分早いくらいなら大丈夫だろう。 喫茶店の扉をあけると――― 「「お帰りなさいませ!ご主人様!」」 以前の俺なら、ここで思考停止してしまっていただろう。 だが、今日の俺は一味違うぜ?黒猫の前で無様な格好は見せられないぜ! 「え、えーと、連れが、先に来ているはずなのですが・・・」 「ご主人様のお名前は?」 「こ、高坂京介です。」 「高坂さまですねー。黒猫さまがお待ちです。こちらのテーブルへどうぞ~」 ど、どうだっ?かっこよく決まっただろ? いや、わかってる、でも突っ込まないでくれ。悲しくなるから。 メイドさんに案内されつつ、店内を見渡すが、黒猫は見あたらない。奥まった所にいるのだろうか――― と、俺の視界に、妙なものが映る。 黒く長い髪、黒いゴスロリ服を着て、ネコミミを着けてるんだが?・・・黒猫じゃあ・・・ないな。 背中側からしか見えないんだが、背格好が大分違う。そして―――あれ?なんか既視感が・・・? まあ、世の中には、似たような服を着てるやつもいるんだろう。 マスケラは結構人気のあるアニメだったようだしな。 そんな事を考えつつ、メイドさんに付いていく俺なのだが――― おいおい、あの、『偽』黒猫の所に向かってないか? 「おまたせしましたっ!黒猫さま。お連れ様がお越しになりましたよ~」 って、やっぱりかよっ! 人違いだと口にしようとしたその時、『偽』黒猫が振り向いて――― 「桐乃っ!?」 「なっ!?・・・・・・わ、我はチバの堕天聖、黒猫・・・よ?き、桐乃って人じゃない・・・わよ?」 「・・・・・・」 「な、何とか言いなさいよ!・・・じ、じゃなくって、な、何か言う事は、ないのかしら?」 どうみても桐乃です。本当にありがとうございました。 そうじゃなくって!?何?何でお前がいるの!?わけがわからねーよっ!? 脳が事態を理解できず、俺はどうでも良いことを口走っていた。 「セ、センヨウの堕天聖・・・?」 「・・・・・・」 うわっ、空気最悪っ・・・! と、とりあえずっ、話題っ、話題っ! 「そ、その服・・・似合ってるなっ?・・・」 「ふんっ!と、当然じゃない・・・当然よっ、どこに目を、つけているのかしらっ?」 つたなくしゃべる桐乃は、明らかに無理をして、妙な口調をしている。 ・・・つーか、これはあれか。黒猫のマネをしているつもりか? ようやく、俺も落ち着いてきて、頭も働いてきたようだ。 「その・・・桐乃?どうしてお前がここにいるんだ?」 「あた・・・私は黒猫よ?兄さん?」 うおぉぉぉぉっ!なんだ、このキモイ妹はっ!?さっ、寒気がしてくる。 おまえが『私』とかありえねーしっ!?それ以上に『兄さん』ってなんだそりゃっ!? 「『兄さん』じゃダメなのかしら?これからは『お兄ちゃん』って呼んだほうがいいのかしら?」 普段の様子とは違い、上目遣いで、頬を赤くしながら見つめてくる桐乃に、俺の脳は再びショート寸前に追いやられてしまう。 ど、どうしちまったんだよ、ほんとに、こいつは・・・ 「そ、それはともかくっ!お、おまえ、なんでここにいるんだ・・・?」 「そ、それはっ・・・あん・・・あなたを、デートに誘ったんだから居て当然でしょ?」 「ちょっ、ちょっと待て!?俺にメール出してきたのは黒猫・・・だぞ?」 「そ、そう・・・よ。だから、あた・・・よ、宵闇の女王であるこの私が来てあげたのよっ!」 こいつ、どこまで黒猫のふりをし続けるつもりなんだろうか? そう考えたその時―――俺の尻の携帯に着信が入り、ぶるぶる震えだした。 「ちょっと待て、メールだ」 とりあえず、『黒猫』をなだめて、メールをチェックする。 こんな状況を作り出すとしたら・・・沙織あたりが、ネタでやってんのかっ!? 意外にも、メールの差出人は、黒猫本人だった。 『夜の眷属である私は忙しいのよ。代わりに我が魂のカケラをそちらにやったわ。 あなたのようなヘタレには、我が身の一欠で十分でしょう?』 ・・・マジっすか? 俺はがっくりと肩を落とし、世界の絶望を一身に引き受けたかのように膝をつく。 「あ、あんた、いきなり何してんのよ?」 「いや、もういいんだ、俺の事なんて・・・デートにすら値しなかったらしいから・・・」 「だっ、だからっ、あたしが来てあげてるでしょっ!」 「・・・・・・」 「ちゃんと、デ、デートに誘った本人が来てるんだからっ、そんな悲惨な顔しないでちょうだいっ」 こいつは・・・もしかして、黒猫が来れない事を知って、俺を慰めようとしてくれているのか・・・? あらためて、桐乃を見てみる。 黒いゴスロリ服。黒猫がいつも着ていたマスケラのキャラの衣装だ。 それに、何故かネコミミ。確かに黒猫はネコミミを着けている事もあったな・・・ 前に見たときと違って、あまりにも似合っていてかわいい・・・だが、何か・・・違和感が・・・ そうだ、いつものこいつと違って、髪が黒い。 わざわざ染めたっていうのか?この衣装・・・いや、黒猫に合わせる為に。 ・・・俺の・・・為に・・・なのか・・・ 「なっ・・・いきなり泣かないでよっ!」 「そ、そうだな・・・すまん、今日はデートだったんだな・・・」 「わ・・・わかればいいのよ・・・」 周りからは奇異の目で見られていただろうが・・・もう、気にしていてもしょうがない。 今日は『黒猫』とのデートを楽しもう。 「それじゃあ、さっそく注文するかっ!」 「い、いきなりびっくりするじ・・・わ」 相手が妹とはいえ、『デート』だと思うと何故か元気が出てくるな。 だが―――元気がでてくると逆に、ちょっとしたいたずら心が芽生えてくるものである。 そうだ、さっきの『お兄ちゃん』に反撃するくらい、バチは当たらないだろう? 「それじゃ・・・店員さーん。このベリーベリータルトってのを2つと、アイスティー1つ。ストローは2本で。」 「は~い。オーダー入りましたぁ♪ベリーベリータルト2つと、アイスティー1つ。ストローは2本でよろしくでぇっす♪」 「あ・・・なた、何を勝手に、注文して、るのかしら?」 「いや、すまん。せっかくだし、ここは俺のおごりにしてくれよ。」 「へえ・・・まあいいわ。・・・ん?ストロー2本・・・?」 と、しかめっ面で考え込む桐乃。 意外と気がつかないもんだな? まあ、気がついた後の、顔が楽しみだ。 「・・・って!?あ、あ、あ、あ、あんたっ!?な、な、何考えてっ!?」 ようやく気がついて、顔を真っ赤にしている桐乃に、俺は至極当然のように答えてやる。 「ん?今日はおまえとデートだしな、せっかくだし『定番』ってやつをやってみようぜ?」 「だ、だからってっ!そんなことっ!」 「いや、デートなら当然だろ?それとも、そんなに恥ずかしいのか?顔が真っ赤になってかわいいぞ?」 我ながらちょっと言い過ぎたか? 桐乃は首まで真っ赤になって、いまにも湯気が出てきそうな感じだ。 「くっ・・・あ、あんた・・・それで、あたしをやりこめたつもりっ?」 桐乃、地が出てるぞ? 「・・・あ・・・私も楽しみだなー・・・」 「そうか?棒読みに聞こえるぞ?」 「・・・それじゃあ、一緒にちゅーちゅーしようねっ、おにいちゃん!」 「○×□△!?」 こ、このっ?それは、反撃のつもりかっ!? 「そのー・・・いい雰囲気のところごめんなさいっ。ご注文のお品物になりますね~♪」 み、見られてたっ!? いやっ、よくよく周りを見れば、お客さん、みんな注目してるじゃねーかっ!? 「あ、あんたっ・・・この始末っ・・・どう着けてくれるのかしらっ!」 「ま、待て、落ち着けきり・・・『黒猫』っ・・・」 「・・・・・・し、仕方ないからっ・・・やるわよっ!」 あれ?俺はある程度のところで冗談にするつもりだったんだが・・・? 完全にマジになってねーか? 「おまっ・・・マジ・・・か?」 「マジよ」 そう言ってる間にも、桐乃はグラスにストローを2本とも挿し、 テーブルに身を乗り出して、そのうち片方を口にくわえた。 ほ、本気かよ・・・? 俺自身がやりだした事なので、全て俺のせいなのだが・・・ 「は、早くしなさいよねっ」 「あ、ああ・・・」 桐乃にせかされて、考えがまとまらないまま、俺はストローに口を近づけていく。 このストロー、先が曲がってなくって、桐乃の顔がやけに近い・・・ 周りからはヒューヒューとはやし立てる声も聞こえてきて、 でも、それ以上に、桐乃からいい匂いがしてきて、真っ赤な顔が本当にかわいらしくって、 頭の中が白くなってきて・・・な、なんで目を閉じるんだよ? 桐乃の赤い唇が、とても魅力的で、目から離れなくって・・・ 「あっ・・・」 テーブルから身を乗り出す無理な体勢だったから、バランスを崩したのは俺だったのか、桐乃だったのか、 いや、そんなふり、しただけで・・・ 俺たちの唇は、永遠にも思える一瞬の間・・・触れ合っていた・・・ 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 その・・・口づけ・・・の後、俺たちは互いに目をそらし、一言もしゃべらないでいた。 桐乃はチラチラとこっちを見てきているんだが・・・一体何を話せばいいんだよ・・・ 「「あのっ・・・」」 ふと、話しかけようとしたのだが、どこかで見たような安い恋愛小説(いや、エロゲか?)のように、 俺たちは、見事にタイミングが合ってしまう。 だが・・・ここは、俺が――― 「その・・・すまんっ。途中で何も考えられなく―――」 「はじめて・・・」 「えっ?」 「あ、あたしの、ファーストキスっ!」 な、なん・・・だと? あんな、遊んでそうな格好してて・・・はじめて・・・だと? 「そ、それは、知らなかった・・・じゃなくて、俺も初めて・・・ いや、そうでもなくって・・・その、すまん、なんというか―――」 「セキニン・・・」 「なっ?」 「このっ・・・責任・・・とってよ・・・ね・・・。」 そんな、泣きそうな顔で、お願いするなよ。 大っ嫌いな妹のお願いでも、聞いてやらないといけない気分になってきてしまう。 そうだよ、俺は、妹の事が大っ嫌いなんだっ! それに、今日は、黒猫に・・・そうか、『黒猫』に・・・だったんだな。 「『黒猫』・・・」 「えっ・・・あ、うん・・・」 「今日は、『おまえ』にデートに誘われたんだったよな。」 「う、うん・・・?」 「そして、この前『おまえ』が、告白して来たのに、俺はまだ、答えていなかったよな。」 「えっ・・・」 「だから、ここで、俺の答えを言うぜ。」 「・・・うん・・・」 俺の前の女の子は、不安に震えて、まるで子猫のようだ。 そう、この目の前にいる『黒猫』に答えを出してあげないといけないんだな。 そうだよな?黒猫? 「『黒猫』・・・俺と・・・つきあってくれ。 俺は、おまえのこと大っ嫌いだけどっ・・・おまえの事が必要なんだ・・・」 桐乃の顔から不安が消え、かわりに、泣き笑いのような表情があらわれる。 「なによっ、それっ・・・わけ・・・わかんないじゃん・・・」 そうか、この表情・・・色々な感情に隠されて、でも、嬉しさがにじみ出ている。 こんな表情が見たくって、俺は今までこいつの事、見てきたんだな・・・ 「あんたが・・・あたしの彼氏なんて・・・気に食わないけどっ!でもっ・・・一生・・・だからねっ!」 お互いに、素直になれない俺達・・・ こんなに気持ちをぶつけ合っていても、口から出るのは気持ちとまるで正反対の言葉ばかり。 でも・・・これまで生まれてからずっと一緒だったんだ。 俺達は、言葉以外のものでも、言葉がなくても、気持ちが通じ合えたんだな。 そうだろ?桐乃。 そして、俺と『黒猫』は、恋人になった。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1668.html
112 名前:【SS】壁の話:2013/03/19(火) 01 49 09.13 ID phViplJw0 ◯高坂家 桐乃の部屋(夜) 桐乃、京介と並んでゲーム対戦をしている。 時計表示23 14。 桐乃「ふひひっ、あんたあれだけあたしが教えてあげたのに こぉーーーんな弱いのぉ?」 京介「ぐ…… お、おまえが教えてくれた連携…全っ然決まらねえんだが」 桐乃「あったりまえじゃん? ちょっとは自分で考えなさいよねー」 京介「くっ、よく考えりゃ騙された! これ完全に練習台ですよね?」 桐乃「きゃははははは! これであんのクソ猫もフルボッコよ!」 京介「いい性格してやがんな… ん? もうこんな時間か… って、あ!」 桐乃「ハイ1、2、3、飛ばして56789~からのー… ドーーン! で Kっ!Oーーー! よっっっっわーーー!」 京介「ぐぅぅぅーーーっ! ぜ、ゼロ勝かよ…!」 桐乃「はー、怖いわー。 こんだけやって無敗なんてー。 マジ怖いわー」 京介「うっせ! はぁ… しゃーねぇ、今日はここまで、だな…」 桐乃「……うわっ! あんた負けっぱなしでいいわけ? 根性死んでるね」 京介「あー、はいはい。 まあいずれリベンジ決めてやんよ」 桐乃「負け犬の常套句だよねー」 京介「あーうるせーうるせー。 …(立ち上がりながら)そろそろ寝るわ。 んじゃな」 京介、そう言ってドアを開けて部屋を出る。 ドアが閉まっていく。 桐乃「…ハンっ、情けないやつ!」 ドアが閉まる音。 桐乃、閉まったドアを見てる。 桐乃「…………………」 桐乃、まだ閉まったドアを見てる。 桐乃「……………はぁっ」 桐乃、PCを落として立ち上がり、照明のスイッチの場所へ移動。 数秒間、部屋を眺めた後に、消灯。 ベッドへ移動し、目覚まし時計を確認した後、布団に潜り込む。 桐乃(今日は結構長いことやってたかな… 3時間近く、かな) 桐乃(……ぷくくっ あいつのあの顔! 超ウケる!) 桐乃(何かコンボ仕掛けて全然当たらない時の顔!) 桐乃(ちょ~悔しそうな! くくっ) 桐乃(それに何かたまに肩とか当たった時? 超うろたえて) 桐乃(「わ、わりぃ…」とかって! 意識しすぎだっつーの!) 桐乃(マジシスコン! そん時の顔も… くくっ 何回思い出してもウケるって!) 桐乃(あ~楽しかった。 あ、ヤバいヤバい寝なきゃ) 桐乃(はぁー………。 3時間、か) 桐乃(…………早い、な) 桐乃、目を瞑る。 しばらくした後目を開き、寝返りを打つ。 ベッドの中で何やらもぞもぞ動く。 少しして、体を起こし、中座する。 俯いていて表情は見えない。 壁の方を向いてから、頭をそっと壁に当てる。 桐乃(……今、向こうに…) 桐乃、再び目を瞑る。 しばらくして、壁に手を当てる。 そのまま数分間、動かない。 桐乃(……………) 桐乃(…………………………) 桐乃(…………………………………………) 桐乃(…………………………………………………………) 桐乃(もし、) 桐乃、頭と手が、がくっと動く。 そのままベッドのヘッドボードに手をつく。 桐乃(っ!?) 桐乃、目を開ける。 何かが違っていることに気付く。 空間の変化に、戸惑う。 桐乃(…………夢?) 壁が消えている。 桐乃の目の前に広がる京介の部屋。 奥の窓、その手前に机、コンポ。 桐乃の部屋と違い、物が少ない。 ふと見下ろすと、京介の寝顔が見える。 桐乃、ふいっと振り返り、座り込む。 桐乃(……えっ?………は) 桐乃(………なに?) 桐乃(…まさか………うそ……) 桐乃、再度ゆっくり腰を上げ、京介の寝顔を見る。 桐乃(……早っ… もう熟睡してやんの) 桐乃、そのまま動かない。 5分が経つ。まだ動かない。 10分が経つ。まだ動かない。 桐乃(………………………) 桐乃、一瞬立ち上がろうとし、やめる。 手が微かに震えている。 それを振り払うように顔を上げ、 手に力を入れ、しかし静かに立ち上がる。 そして移動を始める。 ◯どこかはわからない、路上(夕方) 京介、道を走っている。目の前には、ただ道と、夕日がある。 余裕がなく、ただひたすら走っている。 京介「はっ… はっ… はっ… はっ…」 京介「はっ… はっ… …んぐっ はっ…」 目を凝らすと、道の先に、誰かがいる。 かなり離れていて、その誰かには光が当たり反射していて 誰かはっきり判らない。 京介「待っ… て… くれ」 京介は少しずつ加速する。が、 視線の先の誰かとの距離は、広がらないが 決して縮まらない。或は、縮まらないように感じる。 京介(何っ……でっ、 俺……はっ) 京介(……いつ………から?) 京介(………こりゃ……っ… キツい…わ…) ? 「じゃ、なんでやめないの?」 京介「……やめたく、ないから、だ」 ? 「離れるのが、怖い?」 京介「……さあ、な」 ? 「ほっとけない?」 京介「……かも、な」 ? 「それとも、罪悪感?」 京介「……じゃ、ねーよ」 ? 「もし、追いついたら?」 京介「……追いついた、ら…」 ? 「何を、追いかけてるの?」 京介「……大事な、もの…」 ? 「ほんとに?」 京介「……間違いねえ」 ? 「ほんとに?」 京介「……しつけえな、」 ? 「ほんとに今、追いかけてるのか? 違うんじゃないか? こんなにも距離が縮まないなんて、おかしいじゃないか。 見ろよ、あれは本当におまえが追いかけてるものか。 一回立ち止まってみろよ」 京介「……な、何を言って…」 ? 「おまえは追いかけてないんだよ。いやそれも違うな。 おまえは走らせてるんだ。走らせて、離れさせてるんだよ。 見ろ、おまえは今、立ち止まったのに、まだ疲労し続ける」 京介「……!! そんな、こと…」 ? 「そう……そしておまえはもう、気付いてるんだ。 それがそんなに遠くに離れているものじゃないってことに。 あれは、おまえが作り出した、幻だ」 京介「…あ………」 ? 「分かったな? 今。 あれは、もういらない。 幻だから。 幻じゃないものを、おまえはもう知ってる」 京介「うっ……でも…でもっ」 ? 「おいおい、まだ言うのかよ? もういいだろ? 俺が消してやるよ」 京介「ちょ! 待っ…」 道の先を走っていた、誰かが、ふっ、と消える。 京介「あ……」 ? 「ほーら、おまえはもう知ってる。 だから、何てことない。 あれを追うのも、走らせるのも、終わりだ。 ……もっと相応しい場所に行け」 京介「ま、待ってくれ! ど、どう走っていいか、 前がどっちか…分かんねえんだ! 急には…… それに、今、疲れてて…」 ? 「ははっ …疲れてる?」 ? 「嘘だね」 ? 「だってこれは」 ? 「夢だからな」 ? 「それに…」 ? 「前ばかりとも、限らねえぜ?」 ◯京介のベッドの中(夜) 京介、目を覚ます。 長い夢を思い出し、長い溜め息をする。 そして安堵する。時計を眺める。1時過ぎ。 首を振り、体の向きを変えようとする。 そこで、異変に気付く。 背中に何かが触れてる。 何かではなく、人だと、すぐに気付く。 一瞬にして戦慄が走った後、すぐ過ぎ去る。 その息の音と、背に当たる感触、 体を巻く腕と、服を掴む手、 そして微かな香水の匂いに覚えがある。 京介(桐……乃…?) 京介、振り返ろうとするが、桐乃の腕で途中で止まる。 そこで辛うじて横目で見えた風景に驚く。 桐乃の部屋の窓のカーテンが見える。 あったはずの壁がない。 京介(は……?) そのカーテンの隙間から見える窓の外、 月が見える。 京介(…………) 京介(あれ、何て言うんだっけな、何とか日月、満月の手前くらいの) 京介(…っ!) 丁度そう思った直後、もやのようなものが現れ、 それはそんなに時間をかけることなく、壁となる。 部屋はあっさり元に戻る。 京介(……………夢か? ……いや) 京介、顔を自然な向きに直す。 京介(……例えば、壁が消えたとして、 俺は桐乃の部屋に行こうと考えるだろうか) 京介(……今、こいつは、ここにいる) 桐乃、手を動かす。京介から顔は確認できない。 京介(………!) 桐乃、何かを探すように手を動かす。 京介(…そうだ、そうなんだよ) 京介は、その手を、そっと掴む。 京介(…ははっ、もう逃げらんねえな) 京介、掴んだ手を緩め、手の平を合わせるようにし、 その後、互いの指を交互に挟み合わせ、握る。 桐乃「ぅぁ…」 京介(っ!!) 堰を切ったように、二人とも顔を赤くする。 互いの表情は見えず、ただ自分の顔の熱を感じる。 そのまま、手を握り合ったまま、しばらく固まる。 京介(…………) 京介(いや… 可能性として、まさかとは、思ったけど) 京介(……こいつ、想定外のことに弱いんだよな) 京介(俺も、もう「何で」なんて訊く気はねえけど) 京介(…ははっ こいつも…… くくっ…) 京介「……っく……くふっ」 京介、耐えられずに笑い、体が震動する。 桐乃、耐えられずに手を強く握る。 桐乃「…な、何、笑って…」 京介(………なあ、前とは限らない、だっけ?) 桐乃「だっ ……京介、が…」 京介(そうかもな、でもな、やっぱり俺はさ) 桐乃「……~~~ち、違うから」 京介(前から、行こうと思うよ。 …だってさ) 桐乃「…ちょ、何か」 京介「桐乃」 桐乃「えっ」 京介、握った桐乃の手を持ち上げ、体から外し、 体の向きを、変える。 桐乃「~~~~~~~っ」 京介「…! ……桐乃…」 京介、桐乃と顔を向かい合わせる。 薄暗い中、二人とも顔が赤いのが見える。 END ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/267.html
738 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/02/03(木) 05 01 41 ID kufVLHvw0 [4/7] 「桐乃~、おめでとうー!」 「高坂ッ!奥さんを大事にしろよっ!」 今日はあたしたちの新しい門出。 あたしはあたしの兄貴、京介を夫として、これからの一生を送る事ができるんだ… 「あ、ありがとう…みんな…」 お父さん…お母さん…リア…瀬菜…麻奈実さん…あやせ…沙織…それに黒猫も… これからあたしは今までと違って、一人の女の子じゃなくって、 妻として、京介と支えあっていく人間として生きていかなくちゃいけないんだ。 あたしも、大きく変わらないといけないんじゃないかな、今までのあたしを捨てる事もでてくるのかな。 誇らしさと、少しの不安で胸がいっぱいになる。 「桐乃…せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」 「な、泣いてなんかないっ!」 「まあまあ、京介氏。きりりん氏の長年の想いがやっと実ったのですから。」 「そうよ。この私が認めた貴方達だもの。せいぜい幸せを噛みしめなさいな。」 こいつらに会って…こいつらに会えて…今のあたしと兄貴の関係があるんだ… そう思うと、感謝しても感謝しきれない。 少しの罪悪感と共に、あたしは心の中で想う。 ありがとう…あんたたちに会えて、本当に良かった。 「さて、折角のお祝い事。このままでは締まりませんな?」 「そうね。でも安心なさい。私が闇の世界から取り寄せた魔装具で、この雰囲気を壊して差し上げましょう」 「あ、あんた…な、何する気っ?」 「んっふ………コレよ」 うん、訂正。罪悪感なんてどっかに行ってしまった。 というかコイツ…何考えてるのっ!?バズーカ!?…バカなのっ!? 「安心なさい。コレはただのクラッカーよ?」 唖然としているあたしたちに、平然と言いのける。 「その…気に喰わなかったかしら?重苦しい雰囲気を吹き飛ばす…つもりだったのだけど」 「はっはっはっ、黒猫氏はお茶目さんですな~」 「もうっ………ホント、バカ…なんだから………」 やっぱり、こいつら…本当に…あたしの事… 「さて、それじゃあ沢山あることですし、一人一つ持ちましょうぞ!」 「あ…あなた、何を仕切っているのっ?」 「さあさあ、黒猫氏も、きりりん氏も、京介氏もっ、バズーカを構えてっ!」 「お、おうっ」 「ど、どこ狙えばいいのっ!」 「空に向かって打ちましょう」 その時――― 「きゃあっ!」 ふと見れば、あやせがバズーカをドレスに引っ掛けて、スカートがめくれあがってる。 ううん、それよりも… 「この変態っ!何、あやせの下着、ガン見してんのよっ!」 「ま、待てっ、桐乃っ!これは仕方な…いや、それをこっちに向けるn―――」 「死ねっ!この変態っっっ!」 ―――その後はもう、グダグダになっちゃって…一生に一度の結婚式だったのにっ! でも………あたしたちはやっぱり、こんな関係を一生続けて行くんだろう。 そうだね、そのほうが『あたし』らしい。 兄貴の妻っていう新しいあたしと、今までのあたし、あたしは両方の『あたし』が大事! 兄貴も、友達も、アニメも、エロゲーもっ!全部諦めないっ! 全部がとっても大切なんだから…。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1437.html
236 名前:【SS】 1/2[sage] 投稿日:2012/03/21(水) 22 00 34.48 ID Ufx8KeI50 [1/2] 一人暮らしをはじめて二日目。 俺は夕飯の材料の買出しから帰ってきた。 一人暮らしなんだから当然なんだが、 やっぱり、傍に誰も居ないってのはさびしいよな。 そう思いつつ、部屋の扉を開けた。 「あっ、おかえりなさい、きょ・う・す・け♪」 エライ美人の奥さんが、そこに居た。 「・・・失礼しました」 慌てて扉を閉める。 ついついうっかり他の部屋に入っちまったみてーだな? けーさつ呼ばれねーかな?やべーよな? つーか、やけに桐乃に似てんだが・・・ あのおっぱいの大きさといい、ほのかに漂う匂いといい・・・ でも、んなこたーねえよな。 あらためて表札を確認してみる。 高坂―――俺の部屋だ・・・。 すると、今のはやっぱり桐乃? いや・・・いくらなんでも、俺との関係を疑われてるってのに、こんな所に来たりはしねーだろ? だが、すると・・・ 正直あんまり考えたくもねー可能性なんだが、どうやら俺はよっぽど桐乃に会いたいらしい・・・ だから、あるわけもないあんな幻を・・・ だが、うじうじ悩んでも仕方ない。 今の俺は受験を第一にしなくてはならないのだから。 237 名前:【SS】 2/2[sage] 投稿日:2012/03/21(水) 22 02 08.10 ID Ufx8KeI50 [2/2] 意を決して、再び扉を開く。 「あんた、何勝手に逃げ出してんのよ」 俺の妹が・・・桐乃がそこに居た・・・ 「や、やだ・・・な、なに泣きそうな顔してんのよ・・・」 「だって、お、おまえ・・・」 「し、しょうがないじゃない!あ、あんたって、自炊なんてやったことないし、 ぱん・・・洗濯ものだって自分で洗わないしっ!心配なんだもん!」 おいおい、俺はお前が家事やってるとこだって見たことねーぞ? 「・・・・・・それに、寂しかったんだもん・・・」 やっぱり、そうなんだ。 俺も、桐乃に一日会えないだけで、とっても寂しかったんだな。 じゃなけりゃ、今、俺の中に広がる安心感。 これをどう説明しろってんだ。 「と、ところでっ!」 「ん?どうした?」 「ご飯にします?お風呂にします?そ、それとも・・・あ、あたしっ!?」 えーと、こいつは何を言ってやがりますか? まず、ご飯。これは有り得ない。 チョコレートですら消し炭にするこいつの事だ。 食事なんか作らせたら、翌日二人の死体が発見されること請け合いだ。 次に、お風呂。これも当然有り得ない。 そもそも、もうすぐ高校生の妹と一緒に入る兄がこの世のどこにいるってんだよ! 世間体とかそんなものを考える以前の問題だ。 前者二つが消えた以上、最後の選択肢を選ぶしかねーよな。 「それじゃ、おまえ・・・で・・・・・・・・っ!!??」 この後どうなったかについては・・・ 皆の想像にお任せする。 ただ、その想像を、どうかラブリーマイエンジェルにだけは伝えないでおいてくれ。いや、マジで。 End. -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1207.html
228 名前:【SS】[sage] 投稿日:2011/10/15(土) 14 10 55.43 ID u9/I7VUY0 SS京介&加奈子の受難 「ねえ、本当にブリジットちゃん来るんでしょうね」 「ああ、あやせにしっかり頼んでおいたからな。『桐乃が今後の仕事の幅を広げる為に キッズモデルと仕事がしたいらしい。だから練習として加奈子と仲のいいブリジットを 誘って来てくれないか』ってな」 俺の答えに満足したように頷く桐乃。てかまだ来てないってのにもう目じり下がってんぞ。桐乃のやつはどんだけ年下の妹系キャラが好 きなんだよ……ったくよ。それよりも── 俺は数日前に、この件であやせに電話した時の事を思い出して身震いする。 『用件は分かりました。加奈子には必ず遂行させますので安心していてください。でも、 桐乃に変な事するのだけは許しませんからね! もし桐乃に何かしたら……』 メインは桐乃がブリジットに会いたいって事だってのに、なんで俺に身の危険が!? 俺は桐乃が暴走しねーように横で見てるだから何も心配いらねーっての。しかし桐乃が 絡んだ時のあやせはマジでこえーよ。これじゃ結婚どころか付き合おうって言っただけでも 海底に開けた穴に沈められかねん……。 まあ、あやせがいるなら加奈子も下手な事はしないだろうし、今日は大人しくしておくか。 そんな訳で俺と桐乃は渋谷のハチ公前にいる。ここであやせ達と待ち合わせをしている訳 なんだが……道行く奴らの視線がどことなく痛い。 ふっ。渋くキメてる俺に見とれているってのか。確かに今日の俺は少し違うんだぜ? 今日は桐乃のマネージャーと言う事で、俺は髪をオールバックにしてスーツを着ている。 「つか、なんであんたそんなカッコしてんの。超似合わないんですケド」 「うっせ。こうしないとお前の兄貴だってバレちまうだろ」 ……へいへい。分かってるって。周りの奴らの視線を集めているのは俺じゃない。 俺の隣に立っている桐乃は、いつもより一段と垢ぬけた容姿を見せている。そのせいで 男女問わず注目を集めていやがる。そして桐乃の隣に立っている俺に──特に男が羨望とも 憮然ともとれるような顔を向けて去っていく。最初の頃はそういう視線に納得がいかない 感じもしたが、最近じゃ慣れちまったな。──それにしても桐乃の奴、ここ最近サングラスを 毎回の様に付けてんだよな。普通にかけるんじゃ無く頭の上に付けてるんだが、これが所謂 お洒落用ってやつか。いや……まさか、俺の趣向のせいじゃないよ、な? 「別にバレてもいいじゃん。あたしに何のデメリットもないっしょ」 「そう言う訳にはいかねえんだよ。今日は、お前のマネージャーって事になってんだよ」 「はあ!? なんであんたがマネージャー? そんな仕事あんたにできっこないっての。 大体あんたって空気読めないし、鈍感だしマネージャーに一番大事なとこ欠けてんじゃん」 ありえないモノを見る様な視線を向けて来る桐乃。 「お、お前だって俺の全てを知ってる訳じゃねーだろ! 実は俺には隠れた才能が……」 「ないない。あんたの事を一番見て──知ってるのは妹のあたしじゃん。つかあたしの ノーパソ使って『妹 仲よくなる 方法』とか『妹 スキンシップ』とか検索してる奴が 言う台詞じゃないよね」 「おま……それ以上は言うな! 言わないでくださいお願いします」 く……それだけは絶対に知られたくない内容だったぜ……お兄ちゃん心で泣いちゃうぞコラ。 てかこいつ、また一時ファイルとやらをチェックしやがったのか。いや、今回はしっかりと 消してあったはず。一体どうやって知ったんだ!? 「……いざという時の為にキーロガー仕込んどいたのよ。パソコン素人の癖に変なとこ だけ覚えてってる奴がいるからね」 「な……そんなモンあったのか。人類の進歩ってのは恐ろしいぜ」 思わず額の冷や汗を拭う俺──そしてそれをジト目で見て来る桐乃。 ……今度調べる時は、キーロガーって奴も消しておかないとな。 「いたいた。うぃーっす! 桐乃──とセクハラマネージャー♪」 「加奈子おっそーい! 随分待ったんだから……ね」 こちらを見つけ、声をかけてきた加奈子に桐乃が答え──俺に怒りの視線を向けて来る。 「セクハラは違うからな! このクソガキが妙な勘違いしてるだけだ」 「ふん。まあいいけど。加奈子はあんたの趣味じゃないだろうし」 桐乃に耳打ちしてやると、釈然としないながらも一応は納得の表情に変わった。 ふう……そう言えば桐乃には加奈子の件について殆ど話してないんだよな。ある意味で 爆弾だらけだから、あんまり話したくないっちゃないんだが……。 「遅れてすまねえ。こいつがあんまりにも支度に手間かけるからヨ」 そう言うと、加奈子は自分の背中を指さす。そこにはブリジットが隠れるようにして 着いてきていた。そういやブリジットって人見知りが激しいんだったよな。 「ごめんなさい……でも、かなかなちゃんのお友達だから、きちんとしなきゃって」 ブリジットは加奈子の背中からそろりと顔を出すと、俺たちの顔色を窺うように答えて来る。 「ブリジットちゃん久しぶり! あたしの事、覚えてる?」 「えっと、お、お久しぶりですっ。高坂……桐乃さんですよね?」 ブリジットに覚えられていた事を知ると、桐乃の表情が一気に輝くのが分かった。 ──ったく、さっきまでムスっとしてた奴と同じとは思えねぇ。 「あんた、なんでニヤニヤしてんの。つかキモいっつーの」 「気にすんな。これはいつもの顔だ」 桐乃は言葉とは裏腹に嬉しそうな顔で悪態をついてくる。 素直に嬉しいなら嬉しいって言えばいいのによ。……しかし、あいつの姿が見当たらないな。 「あやせはまだ来てないのか?」 「あやせの奴なら、来れないってよ。用事つってたけどゲリでもしたんじゃね?」 周りを見回しながら問いかけると、加奈子が教えてくれた。あやせが来れないって珍しいな。 あいつなら桐乃が絡むと絶対来ると踏んでたんだが……少し思惑が外れちまったか。仕方ねえ、 加奈子が暴走しそうになったら俺が止めてやるか。 「うへぇ~加奈子腹減っちまった。とりあえず何処か入らね? 店は桐乃に任せるからヨ」 「そうしよっか。じゃあ、いつものスイーツショップでいい?」 「オッケー。腹減ってマジで死にそうだぜ」 桐乃の提案で俺たちはスイーツショップで話す事にした。放っておくと加奈子がのたれそう だからな……まあ、腹のぷにぷに具合からすれば、少々放置しても良い気はする。 「……おめー加奈子にひでー事考えてね?」 俺に鋭い視線を向けて来る加奈子。何も言ってねえのに感がよすぎんぞオイ。 「お前の気のせいだっつーの」 「相変わらず躾のなってねーマネージャーだよな」 「へいへい。なってなくて悪かったな」 全く躾がなってねーのはお前だクソチビ。今日はオメーのマネージャーじゃないから。 「ま、いいけどヨ。そん代わり今日は奢りだかんな」 「分かってるよ。奢ってやるが腹周りの責任はとらねえぞ」 「それ言うなって! ロリ体系にはマジで切実なんだぜ……」 俺の言葉を聞いて、少し涙目になりつつ横っ腹の肉をまさぐる加奈子。 同じモデルと言っても、加奈子には一生悩殺ポーズは望めなさそうだな。 「加奈子置いてくよ。……後そこのロリコンもいい加減にしろっつーの」 少し前をブリジットと歩いていた桐乃が、振り返るなりそう言い放つ。 「俺はロリコンじゃねえし!」 加奈子のやつがなってねえんだよ! と言いたいがここは抑えることにした。 これ以上言っても桐乃の機嫌損ねちまいそうだしな……とりあえず店までは黙っておくか。 □ 俺たち4人は桐乃の行きつけのスイーツショップに入っている。席は俺と桐乃が並んで座り、 加奈子とブリジットが向かいに座るという形だ。今日の桐乃はさすがに『あ、あんたと並んで 座るとかないし……! それじゃカ、カップルみたいじゃん。シスコン極まったあんたとじゃ いつ襲われるか分かったもんじゃない』なんて事は言いださなかったな。つかいつも言われる 訳じゃないぜ? この前──たまたま混んでて知らないカップルと相席になった時に言われた だけの話だ。 当の桐乃は、ブリジットとゆっくり話せるとあってとても嬉しそうだった。さっきから 何やら訪ねては、ブリジットの返答に一喜一憂している。 「ねね、ブリジットちゃんってメルルのどんなとこが好き?」 「ええっと……かわいくて、カッコイイ所ですっ」 桐乃の問いかけに答えるブリジットはほんのり頬を赤くして、隣の加奈子を見ている。。 まさかとは思うが、この子はクソガキ──もとい加奈子にそう言う感情あるの、か? まあ、あやせの桐乃に対する感情もアレだし、女の子同士ってのはよく分からん。──が 「だよね! メルルって最高だもんね! あたしも超好き!」 そう言う桐乃の表情も惚けきってとても人に見せる様な表情じゃない。 おいおい……一応、加奈子にはオタ趣味の事黙ってるんだろ? そんな様子じゃ加奈子にばれちまうんじゃ──いや、大丈夫そうだな。 加奈子を見ると、さっきからジャンボパフェを食うのに夢中になっていて、周りの事は 眼中に無いようだった。食い物与え続けりゃなんとかスルーできそうだな。 「あたしさ、メルルのDVDとか限定版持ってるんだ。イラスト超可愛い奴!」 「ほ、ほんとですかあ!? わたしも普通のならあるんですけど、限定版っていうのは 高くて買えなくて……だから羨ましいですっ」 桐乃とブリジットは、メルルネタで盛り上がっている様だ。この前偽デートであった時は 人見知りされてへこんでたってのによ。今日の桐乃は本当に楽しそうだ。 ──あやせに無理言った甲斐があったってもんだな。 「ふぃ~食った食ったあ」 その声に釣られ加奈子を見る──と空になった大柄な皿が目に入った。 コイツ……あのパフェ全部1人で食っちまったのか!? 確か4人用だった筈だぞ。 「お前……よく全部食えたな」 思わず加奈子に賞賛の目を向ける俺。 「あれくらいどって事ねーよ。つーかまだもう2個は食えるべ?」 「いや……そこは抑えとけよ。一応年頃の女の子だしモデルだろ。仕事出来なくなったら お前どうすんの」 「そんくらい問題ねーって! 毎日歌とか踊りの練習してるしよ、カロリー消費量も 半端ねえんだぜ? むしろジャンボパフェ2個食ってようやくプラマイゼロって位だって」 偉そうにふんぞり返る加奈子。だがその腹の肉は誤魔化せねえからな。 「しっかしこいつら楽しそうだよなあ。ブリジットの奴が加奈子以外に懐くのって初めて みるって」 そう言いながらブリジットを見る加奈子は、少し悔しそうに見える。ま、お前の気持ちには 同意するよ。──俺も恐らく同じ気持ちだろうしな。 目を輝かせながら話している桐乃を見て、ブリジットに軽く嫉妬を覚える。 ブリジットは理想的な妹キャラに近いからなあ。エロゲーを、何本もクリアさせられた 俺だけに桐乃の気持ちはよく分かっている。 「なあブリジット、そろそろ違うとこいかね?」 待っている事に飽きたらしい加奈子が、外に出ようとブリジットを促す。 「ん~~かなかなちゃん、ちょっと待ってて下さい。いま桐乃さんとお話してるんです」 ──今の加奈子の表情はと言うとだな、言葉に表すと『マジで!? こいつが加奈子の事を 拒否しやがった!?』とでも言いたそうな感じだ。加奈子の表情は、俺が今まで事が無い位 沈んでいる。表情から察するに、ブリジットに何かを断られた事なんて無さそうに見えた。 「おい……加奈子、大丈夫か?」 「んあ……? 加奈子はいつでも元気だって……」 「どう見ても元気じゃねーだろ。つか、これくらいで落ち込んでどうするよ」 「ブリジットの奴が加奈子に逆らうなんて初めてだからよ。いつもはシュショーなんだぜ。 加奈子の言う事にはゼッタイフクジューってのがコイツなんだって……」 言葉の割に全く覇気が感じられない。しかし、意外な所で打たれ弱い奴だったんだな。 しょうがねえ、ここは俺が── 「桐乃、そろそろ出るぞ」 「うっさい。あんたは黙ってて」 ──悪いな、俺には無理だったよ。 俺を一蹴すると、再びメルル談義に花を咲かせる桐乃&ブリジット。 ああ……そう言えばオタ話始めたオタクの邪魔すると怖いんだったよね。 とは言えこのまま引き下がるのはさすがに悔しいが……さてどうするかな。 腕を組んで思案する──と、何気なしに目をやった先に加奈子の姿をとらえる。 ……そうか、その手があったか! 「なあ、加奈子。モノは相談なんだが……」 「……奇遇じゃんか。加奈子もマネージャーに相談があんだけどさ」 お互い意味ありげな視線を交わし合う俺と加奈子。 「その前にさ、マネージャーって、確か京介って名前だったよな」 「ん……ああ、そうだけど」 突然そう切りだしてくる加奈子。忘れちまってたが、以前、名前を教えてやってたっけな。 「じゃ、京介でいいよな?」 「構わねえが、お前の相談ってなんだ?」 「それはちょっと置いといてさ……」 加奈子は俺にクイクイと手招きしてくる。……なんだ? 顔をよこせってか。 顔を近づける俺に加奈子は耳打ちしてくる。 「京介って……桐乃の彼氏なんだって?」 「ブハッ! おまっ……それどこで聞いた!? つか彼氏って……」 コイツには何も言ってねえし、あやせも言わないはず。一体どこでそんな話を……。 「桐乃はアホだから気付いてないけどさ、桐乃のケータイのプリクラって京介だよな」 なるほど……元凶は桐乃かよ。 「プリクラの事はずっと前から知ってたんだけどヨ。どっかで見た顔だなーってずっと 考えてたんだ。んでさっき会った時にふと思い出した訳よ。ま、半分カマかけたんだけどな」 ちっ……クソガキの誘導尋問に引っかかっちまうとは情けねえ。 俺の表情を見てニヤリと笑う加奈子。この野郎、また余計な心配が増えちまったぞ! 「まあその件は今度使わせて貰うから気にすんなって!」 「気にするわ! つか今度何する気だお前」 「いやぁ~いいサイフが見つかったなあって、テヘ♪」 「可愛く言っても言動が可愛くねーぞコラ!」 そこで表情を改める加奈子。しかし、どんどんドツボにはまってる気がするぞ。 「でさ、さっきの相談なんだけど──こいつ等にちょっと仕掛けね?」 「ほお。俺もお前と同じ事を考えていたんだが──気が合うじゃねえか」 「具体的にはどうするよ」 「まあ内容は簡単だ。この二人にも同じように嫉妬させてやればいい」 俺の計画を聞いて一癖ありそうな表情を浮かべる加奈子。もう立ち直ってやがるし、さっき まで落ち込んでた奴とは思えねえな。 「んじゃ、こいつ等に負けねーぐらいラブラブなトコ見せてやんべ!」 「おっし! 今回は特例だからな。許せ桐乃……っ!」 まずはそれらしい雰囲気ださねーとな。──俺は店員を呼びつけ、パフェを1つ注文した。 「そうなんだよね! 『めてお☆いんぱくと』のキラッ♪って言うのが可愛くてさあ……」 「ですですっ! わたしも踊り頑張ってるんですけど、難しいです……」 相変わらずメルルの話で盛り上がっている桐乃とブリジット。 ふっ……これを見てもそのまま盛り上がっていられるかな! 「お待たせしましたあ! らぶらぶカップルパフェでぇ~す♪」 メイド服の店員の声が響き渡り、周りの視線が集まって来る。 ……そんな大声で叫ばないで店員さん──って、ちょっと待て! 「あんた! なんでこの店にいるんだ!?」 「友達の代わりに来てるんですよぉ♪ 今日は友達がデートなんですぅ」 そう言うと意味ありげな視線を飛ばして去っていく店員さん(メイド服仕様)。 ……ここってアキバじゃねえだろ。なんでメイド喫茶のあの人がいるんだ!? てか沙織の 姉さんの知り合いって行動範囲広すぎだろう。 「……今のって、京介の知り合いかよ」 「いや……見なかった事にしてくれ」 肩を落としながら答える俺に、何か言いたそうにしながらも頷く加奈子。 俺だって今のはさすがに予想外過ぎたわ。 「んじゃ始めるか」 「オッケー! 加奈子のシャテイとしての意識を取り戻させてやんよ!」 ちなみに俺が頼んだ、らぶらぶカップルパフェなる代物は、スプーンとストローが共に 一本ずつしかない。つまり食べる為にはお互いで食べさせ合わなくてはならない。 ──さすがにストローは二本欲しかったけどな。 「京介、アーンして♪」 加奈子はそう言うとスプーンにパフェを乗せて俺の口に差し出してくる。この野郎…… そうやってると可愛いじゃねえか。決して俺はロリコンじゃねえが、桐乃がメロメロになる 気持ちも分からんでもない。 「旨……オイシイ?」 「ああ。美味いぜ加奈子」 そう言うと頬を少し染めながら両手で顔を覆う。畜生! コイツは俺を萌え殺す気か!? 「今度は、京介からお願い♪」 「仕方ねえな……あーん」 自分で言っててむずがゆくなって来る。だがこれは演技だ……演技なんだ。 俺がスプーンで口にパフェを運んでやると、美味そうに食う加奈子。 やっててなんだが、コイツには演技の素質あるんだなと改めて思った。 「その……美味いか?」 「最高だべ! 京介の想いが伝わってくるし……」 俺に熱いまなざしを向けながら、最高に恥ずかしい言葉を放ってくる加奈子。 しかし恋人同士ってのはこんな恥ずかしい行為を続けなきゃならねえのか……。 「加奈子……今日も可愛いぜ。お前のその瞳に俺は……って痛ぇ!?」 言葉の途中で思い切り頬をつねられてのけ反ってしまう。そちらを見ると…… 怒りの炎を目に宿した、わが妹様の姿があった。 ちらっと横目でブリジットを見ると、目に涙を浮かべて加奈子を見ている。 「あんた……一体何やってんの! と言うか、加奈子もコイツに何してくれてんの!」 「かなかなちゃん……わたしはとっても悲しいです」 どうやら作戦は成功したらしい。が、今度は俺の命がヤバい気がする。 「言い訳は聞かないかんね! どう言う事か聞かせて貰うから……」 こりゃマジで怒ってるな。正直に言っても聞いてくれるか分からん。 「あー……今のは、チョットしたお芝居だよ、シバイ」 加奈子がそう言うと、桐乃の怒りが少しだけ和らいだように見える。 「芝居って……どう言う事?」 「それはさあ……」 「加奈子には聞いてない。京介、あんたの口から言って」 桐乃にマジ切れ顔で言葉を遮られ、黙りこむ加奈子。……さすがに今の桐乃に逆らえる奴は いないだろうな。こうなるとあやせでも太刀打ちできん。 しょうがねえ、聞くかどうか分からんが正直に話すとするか。 「お前ら──桐乃とブリジットが二人だけの世界に入っちまったからさ、少し相手に嫉妬 しちまって──悔しくてやったんだ。俺も加奈子も大切な相手が何処かに行っちまったみたい に感じて……それでやったんだよ。ただちょっとやりすぎちまった感はあるけどな」 俺の言葉を聞いて黙りこむ桐乃。その表情は何か思案しているようにも見える。 「ふうん……嫉妬……ねえ。あんたがあたしに……へえ」 言葉を途切れ途切れに紡ぎ出す桐乃。その表情が徐々に変わっていく。こいつは── そうだ、あの時の──ずっと前、俺と桐乃の仲があまり良くなかった頃によく見た表情だ。 だけど俺の感じた雰囲気はあの頃とは違っている。この顔で『キモ』とか言いだす時って ツンケンした表情ばかりだった中で唯一嬉しそうな顔だった気もする。 桐乃の奴機嫌を直してくれたの──か? 「ブリジット……この通り! 謝るから許してくれって。な?」 「……その……よく分からないんですけど、かなかなちゃんも寂しかったんですか?」 「ん……まあ、チョットだけ、な。それに……加奈子はブリジットのセンパイだかんな」 「えーっと……かなかなちゃんごめんなさい。わたしが悪い事してたみたいです」 隣の加奈子とブリジットもどうやら仲直りがうまくいきそうな感じだ。 逆にブリジットに謝られ、照れくさそうにしている加奈子はまんざらでも無さそうに見える。 少し揉めちまったが、なんとかなりそうだ──。 □ 「今日はありがとうございます。桐乃さん、またお話してくださいねっ」 「もちろんだって! ブリジットちゃん、また遊ぼうね!」 ブリジットは桐乃に挨拶をすると、加奈子の元へと走って行った。 疲れたような表情で軽く手を振るとブリジットと並んで歩いていく加奈子。 二人の姿が見えなくなると、桐乃は俺に向き直る。 「つーワケで、あんたには貸し一つね?」 「は? 貸しって何だよ」 いきなりそう言われても訳が分からんぞ。 「……あんたはあたしに酷い事したじゃん」 「いや、それは悪かったって……まだ怒ってんのか?」 「当たり前じゃん。……あたしの前で他の子とイチャつかれて嬉しいと思う?」 「それは……」 幾らお灸を据えようとしたと言っても、確かにやりすぎたよな。桐乃は俺との約束を 守ってくれてるってのに──。 「すまねぇ。さすがに返す言葉が無いわ」 桐乃は、俺を見つめたまま黙っている。やっぱ酷過ぎたよ、な。 「まあ今回は──その、あたしもはしゃぎすぎたトコあったし、一応は、許してあげる」 「……一応?」 「まあね、その代り──」 桐乃はそこで言葉を区切ると、軽く深呼吸する。 「あんたはあたしの傍を絶対に離れない事。何があってもね?」 「傍を──って、その風呂とかもか?」 思わず口に出した言葉に、顔を真っ赤にさせる桐乃。 「な……このヘンタイ! シスコン!」 「お、お前が言ったんじゃねえか!?」 「そう言う意味じゃないっての! ったく……」 桐乃は俺の右隣に並ぶと、軽く腕を絡めてくる。 「お、おま……桐乃!?」 「……さっき言ったっしょ──あたしの傍を離れない事って。だから組んであげてんの 分かった? つかいいから歩く! さすがにボーっと突っ立ってたら恥ずかしいっての」 俺は急かされるまま、桐乃と歩いていく。 ──全くよ、お互い素直じゃねえって事か。 「……さっきの言葉、聞こえてたから」 隣を歩く桐乃は、ふとそんな事を言いだした。 「さっきの…って何だよ」 「加奈子にあたしの彼氏じゃない? って聞かれた時、あんた否定しなかったっしょ」 「……お前聞いてたのかよ。なら俺の言う事を聞いてくれてもよかったんじゃねえの?」 そう言うと、桐乃は俺の顔を見──プイっと顔を背ける。 「見れるワケ無いじゃん……その辺察しろっつーの──この鈍感」 「へいへい。んじゃ、どこか寄って帰るか? まだ時間あるだろ」 「そうだね。ならあんたはあたしをしっかりエスコートする事!」 ──今日は色々あったけど、こういう結末なら悪くないかも、な。 □ 「なあ……桐乃。少し寒気がしないか?」 「……うん。あたしも少し感じてた。この気配ってなんだろう」 -------------